今思えばガキだったのかもしれないけど。
 あの時は本気だった。
 精一杯背伸びして、必死にひとつの恋をした。

 あの時ああしていれば、こうしていれば。そんな後悔は幾つも重なってしまったけれど。

 それでも――











be my last...











 ぽたり。

 水の滴る髪を、真っ白なタオルでがしがしと拭く。
 慎は、一人でいる時は意外とがさつで大ざっぱな自分を認識していた。
 生乾きの黒髪をかきあげて、黒いベッドにタオルを放り投げてそのまま俯せに身体を沈める。しっとりとした自身の髪の毛が頬に触れてくすぐったい。
 無造作に床に置かれたCDプレイヤーから聞こえる英語のメロディが眠気を誘って、時計の針はまだ10時を回ったばかりだと言うのに自然と瞼が重たくなった。

 夢の中に出て来るのは決まってあいつだ。
 何処までも自分を浸食し、染めていく。
 自分の全てがあの女に直結しているのに、あの女はそれに微塵も気付いていないであろう事実に胸糞が悪くなる。

 どうしようもないほど慎は久美子に恋していた。






 「慎!」と呼ばれた気がして闇の中に墜ちかけだった意識が急に連れ戻された。
 気怠く身体を起こして耳に飛び込んで来たのは、金髪の親友の声。
 鍵を開けてノブを回してドアを開けると、顔の前で手を合わせた親友は「今日泊まらせてくんねぇ?」と頼み込んだ。

「いいけど、何で?」
「母ちゃんに締め出された」
 親友母子は喧嘩するほど仲が良いを地で行く。
 親友が母親を大切にしているのは承知の事実で、締め出しをくらっても、目が笑っていた。
「何が原因だよ」
「洗濯物たたみながら『母ちゃんのパンツでけぇな』って言ったら殴られた」
「・・・あほくさ」
 慎は再び、ベッドに寝転ぶ。今度は仰向け。

「なぁ慎」
 テーブルに肘を突いて顎に手を掛け、内山が唐突に話を振った。
「告れば?」
 にやり、と向けられたからかいの目。
「・・・何が」
 目線を合わせずに、慎は枕元に置いてあった文庫本を開く。目的語が無いので答えない。
「ヤンクミだよ」
 話に乗って来ない慎に我慢出来ずに、内山は目的語を口にした。
「結構キてんじゃん?最近の慎、余裕ない感じ」
「は」
「持て余してんじゃねえの?」

 それは事実。
 膨れ上がった恋心は隠し通す事も出来ていない。気付いていないのはきっと当の本人だけ。
 慎は、手の甲を額に乗せた。
「笑うか?」
 天井を仰ぎなら自嘲気味な口調で呟く。
「いんや。俺は嬉しいけどねー。慎ちゃんが普通のオトコノコだって解って」
 内山はにやにやと笑顔でポケットからタバコの箱を取り出して、手慣れた仕草で口に咥えた。片手でライターに手をかける。
「うっちぃ」
「ん?」
「・・・それ、御法度」
 煙草に目線を送る。まだ自分達は高校生の身。勿論自分も、いきがってそれを吸っていた時期もあったが久美子に会ってそんな考えもどこかに吹き飛んだ。
「・・・ああ、悪ぃ」
 内山も煙草の箱をそのままゴミ箱に投げ入れる。

「マジで惚れてんだな」
 内山は、今度はコンビニの袋からお菓子を取り出して食べ始めた。
「・・・ああ」
 一つのことにここまで入れこむなんて、自分でも変わったと自覚している。けれど、それだけの影響力が久美子にはあるのだから仕方ない。
「でも」
 力無い声を出す。
「・・・この距離が嫌なわけじゃない」

 近付きたいのも事実。
 けれど、このままでいたいのも紛れも無く本音だった。























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