最近、沢田慎は避けられている。それも…彼の最愛の女に。
彼女が彼を避け始めたのは、1週間前の火曜日の事。
その日からずっと…彼は思い悩んでいた。
それもその筈、どうして彼女に避けられるのか…理由が全く思い当たらないからである。

…何なんだよ。俺…何かしたか?…マジで訳分かンねえんだけど。







天気≠機嫌







「…まだ8時かよ…」

鳥の囀りにムクッと起き上がり、時計を見る。
今日は月曜日、数学は3時間目…という事は、まだ家を出なくても良い。
そう思って二度寝しようとしたが…あのオンナの態度が気になってなかなか寝付けない。
…しょーがねえ、行くか…気になるし。
休みを2日挟んであのオンナの機嫌も少しは良くなっただろう。
ほんの少しの期待を胸に、寝起きでまだ重い身体を無理矢理動かし制服に袖を通した。

出掛けに目にした朝のニュース番組。
"今日は一日中晴れるでしょう。皆様、良い一日を!"
番組の最後、気象予報士かアナウンサーなのかいまいち分からない中年男がのん気に言った。
…アンタの最後の一言、マジで腹立つンだけど。
彼にとって今日一日が良い日になるのかどうでもいい日になるのかは…彼女によって決まると言っても過言ではない。






今日の天気……良好。
今日の沢田慎…曇りのち…?






「あ、慎。おはよー」
「…はよ」

以前は遅刻する事が多く、こんな時間には滅多に顔を見せなかった彼だけれど。
1週間前の水曜日から欠かさず実行している事がある。
それは…仲間達と同じ時間に同じ場所へと集まり、共に学校へと向かう事。
何故そんな事を欠かさないでいるのか…?
理由は簡単だ…彼等と共に歩いていれば彼女に必ず遭遇できるから、である。

「おーいお前ぇら、おっはよー!!」
「おはよー、ヤンクミー」
「おはよー」
「朝っぱらからうるせえよヤンクミぃ!」
「うるせえとは何だ、南!このヤローッ!!」
「ふぁ、ひゃんふひー、ひょはひょー!(あ、ヤンクミー、おはよー)」
「ん?何だクマ、お前また食ってンのか?太るぞ」
「…だって腹減ったンだもん」

敢えて声を掛けずに、騒ぐ仲間達と彼女をただ傍観する。
…あ。
傍観していた彼の視線と、ふいに彼の姿を探そうとした彼女の視線が…唐突に絡み合う。
柄にもなく笑い掛けようとした…が、その視線は即座に解かれる事となる。
…そう、彼の最愛のオンナによって。

「………おい、何黙って目ぇ逸らしてンだよ」
「…え?何?……じゃ、アタシはこれで!お前ら遅刻すんなよー!!」

彼の意を決しての一言。
あろう事か彼女はその一言が耳に入らなかったようなフリをして。
職員会議遅れちまう!と言い全速力でその場から去って行った。
…ったく、嘘ついてンのバレバレなんだよ…お前。





なあ、マジで意味ワカンネェんだけど。俺、本当にお前に避けられるような事したのかよ…





今日の天気…未だに良好。
今日の沢田慎…曇りのち、大雨。





「………………ッ…」
「慎?どーしたんだよ?具合でも悪ィのか?」
「…クマ、そっとしといてやろう…」
「…え、でもうっちい…」
「いいから!慎にも色々とあンだよ、そっとしとけって」
「………悪ぃ、先行っててくれ」
「あ、慎!3限数学だからなー!」
「…ああ、分かってる」

ほんの少しでも期待した俺が馬鹿だった。
というか、休みを2日経てもまだ自分を避けるそもそもの原因は…何なのだろうか。
考えても考えても出て来ない答え。
彼は苛立っていた…自分を避ける最愛のオンナにではなく、そのオンナに何をしたのかを全く思い出せない自分に。
…このままじゃ埒が明かねぇ…少しアタマ冷やすしかねぇな。






「慎、大丈夫かなあ」
「気にすんなって。デブは自分の体重心配してろ」
「うっわ、何それマジ酷くねえ?」
「その台詞はこの贅肉をとってから言えーっ!」
「バカ南っ!触るなって!」











……あからさま過ぎたか?まさか…バレたり、はしてないよな…

「……はぁ…」
「…山口センセ?職員会議もう終わりましたよ?」
「え!?」

気が付いたら周りの教師達は自分の担当するクラスへ向かおうと職員室を出て行く所だった。
まさに今…同僚である藤山が声を掛けてくるまで約10分間、ずっと心此処に有らず。
彼女の天敵である猿渡教頭が何度名前を呼んでもからかっても微動だにしなかった。
…そう、彼女もまた、彼と同様に思い悩んでいるらしい。
先程から一言も喋る事はなく、口から出るのは溜息ばかり。

「な、アンタさっきっから溜息つきすぎやで」
「悩み事あるなら相談に乗りますよ?」
「い、いいですいいです!ちっぽけな悩みなんでっ!!」
「…アンタ結構水臭いなー…何や、話してみ?」
「いや、だからいいですって!ほんとに何でもないですからっ」
「なーんか怪しいですね、川嶋センセ」
「…ほんまになあ」
「何もないですっ!…じゃ、教室行きますんで!失礼しますっ」

これ以上その場に居たら吐け吐けと言われ、気まずくなるに違いない。
そう瞬時に察した彼女は、出席簿と1時間目の授業の用意を机から掻っ攫い逃げるように職員室を出た。
「危ねえ所だった…」
…川嶋先生と藤山先生にバレたら何言われるか分かンねえよ…
女山口久美子、生徒に恋してます、なんて…絶対に周りに話していい事じゃない。
それよりも教え子の事好きになるなんて…何やってンだよ、アタシ。



そう、山口久美子は…教え子である沢田慎に恋をしていた。
しかしそれを悟られまい悟られまい、と懸命に彼を避けていたのだ。
自分の想いは絶対にバレちゃいけねぇんだ、と妙な事をしでかす彼女。
まさに彼は振り回されているのだ…最愛のオンナに。
そんな事は露も知らない当の彼はアタマを冷やそうと今頃河原で寝転んでいるのだろう。



「……よーし、今日も気合入れていくぞ!ファイト、オー!」

平静に、平静に、といつも通り気合いを入れる。
騒がしい教室に入った彼女が、惚れた男の不在を確認して…その男の元へと向かうのは、5分後の事。
それから帰って来た二人は…前よりもほんの少しだけ距離が近付いたように見えた。
何が起こったのか…?それは彼と彼女だけの秘密。








━━(無理矢理)完━━





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素敵サイト「c/s」様での絵チャットで書かれた「///4ever///」様の、海里さんと暁草太さんのの素敵リレー小説です。
その後海里さんが小説に書き直したものをいただいてきました。
5分の間に何があったのか?!気になって気になってしかたありません(><)
ありがとうございました!
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