制裁。 今日の5時間目は現国。 そう、彼女の担当である数学ではないためいつも通り机に突っ伏して眠ろうとした。 …のだが。 「おいコラ、沢田慎!寝てンじゃねえよ」 「…寝てねぇよ…つーかうっせえ」 声に驚いて机に突っ伏していた顔を上げる…と、何故か目の前に立っていたのは担任である山口久美子。 思わず壁に貼ってある時間割を確認したが5時間目は間違いなく現国。 …という事は数学担当の担任が此処に居るのは絶対におかしい。 おい、何でお前此処に居るんだよ…? 頭に浮かんだその疑問を本人に問い掛ける暇もなく、丸められた教科書でバシンと頭を叩かれた。 「テメー…何すンだよっ」 「授業中に寝てるお前が悪ぃ」 「だから寝てねぇよ…っつーか何でお前が居ンだよ」 「何でって…朝HRで言ったじゃねーか、5時間目は数学に変更だ、って」 「…あ、そう」 「お前聞いてなかったのか?…全くしょーがねえなあ、これだから慎公は…」 「…うっせえよ…っつーかお前いきなり目の前に現れンな」 「は?何でだよ」 「…目障りなんだよ」 「そうかいそうかい。へー…お前そういう事言って今後どうなるか分かってンのか?」 「…生徒を脅さないで下さいヤマグチセンセー」 おい…生徒脅していいと思ってンのかよ、このクソ教師。 「…ッてぇ…っ!!」 ゴツン、という音と共に感じる鈍い痛み。 そう、あろう事かアイツは俺の頭を拳で殴ったのだ。 …マジ信じらンねえ…ふっざけンじゃねーよお前。先公なら何してもいいのかよっ… 「自業自得だ、沢田慎」 痛みに思わず頭を抱えた俺を見たアイツは悪びれる様子もなく豪快に笑いながら教卓の元へと戻って行った。 …この暴力教師っ!生徒殴っていいのかよっ!っつーか笑ってンじゃねえよ… 去って行く後ろ姿をただただ睨み付ける事しか出来ない自分に憤りを感じたのは言うまでもない。 「…慎ちゃん」 「ン?何?」 「だいじょーぶ?ゴツンって…すっげえ音したけど」 「…ああ、何とか無事」 「コラ其処っ!!授業中に喋ってンじゃねえっ!」 「うわああああっ、チョーク投げンじゃねえよヤンクミーっ!!」 「…って」 頭を拳で殴られた俺を見て心配し声を掛けて来たクマとほんの少し会話をした。 しかしそれを偶然目にしたアイツは…あろう事か持っていたチョークを俺達目掛けて思いっ切り投げつけてきたのだ。 そして…見事と言うべきか、2つ投げたうちの1つが俺の頬に命中した。 たった一言二言交わしただけなんだけど…と反論しても"一言でも二言でも三言でも一緒だ!"と怒鳴られるに違いない。 そう思い反論するのは諦め、教壇に立つアイツを睨み付けた。 「し、慎ちゃん…っ!?大丈夫?」 「ヘーキ、気にすンな」 「でも…ほっぺた白くなってるよ」 「……顔洗って来る」 「…え!?あ、慎ちゃんっ!?」 丁度いい、アイツの態度にいい加減キレてきたし…サボっちまおう。 そう思い立つと暴力教師には何も告げず即座に立ち上がり後ろの扉を開け教室を後にする。 そんな俺の考えを察したのか…走って後を追い掛けて来る変な所で勘のいい幼馴染。 …ッたく、付いて来ンじゃねえよクマ。お前が付いて来たら面倒な事になるじゃねぇかよ… 「おいお前ぇら!堂々とサボろうとしてンじゃねえよ!」 「顔洗いに行くんです。…誰かの所為で汚れたんで」 「じゃあクマは何なんだ、クマは。付き添いか?顔洗いの付き添いか?ああ?」 「クマ……お前戻ってろ」 「ええっ!?でも…」 「良いから戻れ。戻らねえと山口に殺されるぞ」 「…分かった…」 「なあ山口、コレで良いだろ?」 「ン?…あ、ああ。お前顔洗ったらちゃんと戻って来いよ」 「ああ」 慎ちゃんがサボるなら俺もー、と後に付いて来ようとしていたクマを脅し、教室へと戻らせる。 一連の様子を見ていたアイツは"ちゃんと戻って来いよ、慎公…"と言い残し教室へと踵を返した。 …誰が戻るか、馬鹿野郎。 そのままトイレで頬についたままの白い粉を洗い流し、何時もの場所へと向かった。 鍵の掛かっていない扉を開け、外へ出る。 こんな時間には誰も居る筈のない屋上。 悠々といつもの定位置へ歩みを進めた。 吹き抜ける心地良い風。 暖かい陽の光。 ベンチへと横たわり、ゆっくりと目を閉じた。 教室。 「なあ、慎どしたの?」 「さー…何か知ってる?クマ」 「ああ、慎ちゃんなら顔洗いに行ったよ」 「「「へえ、顔洗いに行ったのか…」」」 「でもさ、慎が出てったのって…13時半じゃなかったっけ?」 昼ご飯後の5時間目というのは格好の昼寝時間。 仲間のほとんどが夢うつつだったために、担任と慎のやり取りは隣の席のクマ以外誰も見ていなかったらしい。 慎が居ない事にようやく気付いた南が疑問の声を出したのは、彼が教室を出て行ってから15分後の事。 そう、時既に…13時45分。 「……ほ、ほら!トイレ混んでるかもしんねぇじゃん!」 「…混んでる訳ねえだろ。うっちー、お前馬鹿じゃねえ?」 「ばっか南!お前、慎を殺す気か?!」 「…あ!!悪ぃ…」 「っつーかヤンクミ、顔怖ぇんですけど…」 「ああ、マジ怖ぇ…」 「なぁ、野田。なんでヤンクミ怒ってンだ?」 「…クマ、お前ってヤツは…」 「ヤンクミ、機嫌悪いのかなー?何かあったのか?」 「「「クマと話してても埒が明かねェ…」」」 いくら慎でも顔を洗うのに15分も掛かる訳がない。 そうとなれば…きっとサボって何処かに消えたに違いない。 …おい慎何してンだよ…っ、ヤンクミ怖ぇよ… 明らかに怒っているであろう担任は先程から何も口に出さず、教室内はシーンと静まり返っている。 …勘弁してくれ…ああもう嫌だ… 「あ、あのぉ……や、山口先生……」 「…何だ?南」 「やー…えっと……その……な、何でもないです……っ!!」 「…チッ…」 「あ、あの、山口先生っ、…俺達は大丈夫なのでさ、沢田君の様子を見に行ってはどうでしょうか…?」 「…黙ってろ、クソガキ」 「!!す、すいませんでした…ッ!!」 「あーーーくっそ腹立つ。沢田慎…ただじゃおかねえっ!!」 果敢にも怒り心頭の担任に話し掛けようとした南と野田だったが… 舌打ちと物凄い一言を返され、二人共すぐに戦線離脱してしまった。 …何だよ、其処まで怒る事かよ…っ… …マジ怖ぇ…ッ!俺もう嫌だ、関わりたくない! どうやら教壇に立つ担任は…慎が授業をサボった事よりも慎に嘘を吐かれた事が一番許せないらしい。 「おいテメェら、ちょっと耳貸せ」 「「「「「「「は、はぃ…ッ!!」」」」」」」 屋上。 バタバタバタ…という数人の足音に閉じていた目を開ける。 そして、ガチャッと開けられた扉から入って来たのは…仲間達。 走って来たからなのか、全員の額にうっすらと浮かんでいる汗。 …何かあったのか…? 嫌な予感が脳裏を掠めたが、とりあえず此処に来た理由を聞こうと横になっていた身体を起こした。 「どーしたんだよお前ら」 「慎、大変だ!ヤンクミが、ヤンクミがあああああっ!!!!」 「山口が…どうしたんだよ?」 「いいから慎ちゃん、早く教室戻って!」 "早く早く"、と声を揃えて言うだけでそれ以上は何も言わない仲間達。 …何があったンだよ、訳分かンねぇっつーの… そうは思いつつも、仲間達の酷い慌て様を見て担任に何があったのか気になり急いで教室へと戻る。 「ゴメン、慎…」 屋上に残された仲間達。 南が呟いた一言にただ首を縦に振る事しか出来ないその他大勢。 教室。 ようやく辿り着いた教室の扉を開け、中に入る。 と、其処には… 「…お帰ぇり、慎公」 「…や、まぐち…」 何かあったのか…?と聞くまでもない。 教室に入った俺を物凄い形相で睨み付け、腕を組みながら仁王立ちしている担任。 憤りを隠しもせず、不機嫌なオーラが目に見えて分かる。 …アイツら…騙しやがったな…ッ…!! 「お前…よくもこの私に嘘ついてくれたなあっ!このクソガキがああああああっ!!!!」 「う…わッ!!何すンだっ馬鹿っ!」 「馬鹿はテメーだ、沢田慎」 「この…暴力教師…ッ!!!!!」 「おー、何とでも言え、この嘘吐き男めっ」 「ッてぇ…っ!ヤメロ!」 「誰が止めるか、馬鹿野郎」 担任・山口久美子vs生徒・沢田慎。 この勝負、6時間目が始まるまで延々と続いていたとか…いないとか。 *********************** こちらも素敵サイト「c/s」様での絵チャットで書かれた「///4ever///」様の、海里さんと暁草太さんのの素敵リレー小説です。うきゃー久美子と慎のやり取りがたまらないです!!ありがとうございましたv |
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