どうしようもない不良達の溜まり場である黒銀学院高等学校3年D組。
前任者が生徒達の暴力に倒れ、辞職した後に現れた山口久美子というオンナ。
一度突っ走ったら誰にも止められない。
例え生徒であろうと悪い事をする奴には容赦なく暴力を振るう。
しかし…何があっても生徒を信じ、自分を犠牲にしてでも生徒を守ろうと必死に動いてくれる…頼り甲斐のある先公。
そんなおかしなオンナが3年D組の担任になって早1ヶ月。




誰もが思っていた。
"あのヤンクミに男が居る筈なんて…絶対にない"と。
しかし、その思いを覆す出来事が起こったのは…2月中旬のとある日の放課後。









凱旋。…成功を収めて帰ってくること。









「んじゃ、今日は終わり。気ぃ付けて帰ぇれよー」

HRを終え、"明日遅刻すんなよ"と一言付け加えるとじゃーな、と言いながら続々と帰って行く生徒達。
バタバタと足音をたてながら去って行く生徒達を見て、教壇に立つ担任は大きな溜息を零した。
明後日は丁度バレンタインデーだという事もあり、全員浮かれているのが丸分かり。
担任である山口久美子はそんな生徒達の様子を見て、これでは話をしても誰も聞かないだろう、と敢えて何も言わなかった。
本当はHR中に進路の話をしようとしていたのだが。
…ッたく、アイツら自分の将来の事ちゃんと考えてンのかねえ…
そう呟き、溜息をついて教卓の上に置いた専門学校や大学の資料を片付け始めた。

「…オジャマシマス」

突然ガラッと開いた扉から入って来たのは…一人の青年。
制服を着ていない事から、学生でない事は一目瞭然。
年は2、3歳程上だろうか。
整った容貌、醸し出される雰囲気。
其処に居るだけで人目を引かれる…まさにいい男。
突然現れたそのいい男を一目見たお馴染みの5人組は言葉を失った。

「ねーねー!あのカッコイイ人…誰だろーッ!?」
「知らないニャー…でもカッコイイ……!!」





そのいい男は教室へと入って来ると、教壇に立っている担任の元へゆっくりと歩み寄った。
担任は口をあんぐりと開けたままその場に立ち尽くしている。
教室に居るのは、担任といい男と…小田切・矢吹・武田・日向・土屋…の合わせて7人。
…何者なんだ、あの男。山口と知り合いなのか…?





「あの人、ヤンクミの知り合いかなー?」
「知らねえ」
「…興味ねえ」
「隼人も竜も…何でそんなに不機嫌なんだよーッ!?」
「やだーっ、ダーリン!ワタシこわーい!!」
「心配するな、ハニー。俺が守ってやるから」

矢吹と小田切の不機嫌オーラを察知した日向が思わず土屋に抱き付いた。
…アホかお前ら…
ボソッとそう呟いた小田切だがその一言が聞こえる筈のない二人のバカップルごっこは止まる事を知らない。
"ダーリン、ホントに守ってくれるー?""はははは、ハニー。俺を誰だと思ってるんだ?"…そんな会話の繰り返し。
…しつこいよ、こーすけもツッチーも。もういい!
バカップルごっこを続ける二人を無視し、武田が教卓の元へと近付こうと立ち上がった。

「直接聞いてくるっ!」
「…止めとけ」
「竜の言う通りだよ、タケ。今は止めとけって」
「ええッ!何でだよーっ?みんなあの人が何者なのか知りたいんでしょ?」

だから俺が代表で聞いてくるってー、と今にも二人の元へ走って行きそうな武田の腕を掴み、止めろという矢吹と小田切。
よし、と気合いを入れて聞きに行こうとしたのだが…幼馴染である二人に止められ出鼻をくじかれる形になってしまった武田。
それが余程悔しかったのだろう、腕を掴んだままの二人をキッと睨み付けた。
…何でだよっ!みんなが聞こうとしないから俺が聞いてあげようとしてるのにっ!

「…じゃあどーするの?」
「いや、俺に聞かれても…なあ竜、どうする?」
「…だから俺は興味ねえって」
「ンな事言っちゃって、興味アリアリのく・せ・に!」
「…さっきから興味ねえって言ってンだろ」
「んまあ、素直じゃないんだから…竜ちゃんってば」
「五月蝿ェ」

武田の腕を掴んだままの小田切が、開いている方の手で矢吹の頭を叩いた。
流石の矢吹も小田切が其処まで怒るとは思っていなかったのだろう、イテッ!と声を出して小田切を睨み付けた。
何だよっ、竜も隼人も全然ダメじゃん!俺に任せとけばいいのにっ。





「…」
「…」

黒板の前に立つ担任は口を開けたまま動かない…いや、一歩も動けないというべきだろうか。
未だに硬直したままその場に立ち尽くしている状態。
入って来た男も何も言わず、その場に立ったまま動かない。
そして…ようやく沈黙が破られたのは5分後。
先に口を開いたのは男だった。

「…久し振り」
「…」
「もしかしてお前俺の事忘れたのか?……久美子」
「わ、忘れる訳ないだろっっ!!」






男は硬直したままの担任に近寄り、耳元で何か囁いた。
5人は定位置である一番後ろの席に固まっているお陰で何も聞く事が出来ない。
…おいお前、山口に何言ったんだよ…
顔を真っ赤にしながら"馬鹿、忘れる訳ないだろっ!!"と大声で否定する担任を横目で見ながら小田切が小声で呟いた。

「…マジで何モンなんだよ、アイツ」
「まさか……彼氏?」
「ええっ!?そりゃないっしょ」
「彼氏なら…俺のチェック、厳しいよ」
「…なーんかタケちゃん、怖い」

日向の一言に矢吹と小田切が押し黙る。
そして武田はというと、突然キャラが変わったかのように低い声を出してそう呟いた。
…ええっと…これはどーいう事ですか…?
3人の行動や言動の意味が分からない日向は思わず横に座る土屋に助けを求めるように視線を送る。
しかし、土屋も事の真相が分かっていないのか…首を横に振った。






「なぁ、いい加減口閉じたらどうなんだ?」
「……へ?…あ、ああ」
「…そういうトコは変わってねえんだな」






男に何か言われて気付いたのだろう、開けたままの口をようやく閉じた担任。
静まり返った教室内に木霊するのは"五月蝿ぇっ!そういうトコってどういうトコだよっ!!"という担任の大声。
そんな担任の様子を見て、彼は口の端を少し上げてフフッと笑った。

「ね、笑ってる!あの人笑ってるよ!」
「笑った顔もカッコイイっ!……なぁ、なに隼人も竜もキレてんの?」
「「…」」
「なあ、何でキレてんの?」
「こーすけ…お前ちょっと黙ってろ」
「…ぅ…ッ」

未だ事の重大さを分かっていない日向が矢吹と小田切に話し掛けた。
当然二人は何も答えず、黙りこくったまま。
しかしそんな二人を見て日向は尚もしつこく問い質そうとする。
その様子を見兼ねた土屋が日向の腹に一発お見舞いした。

「あ、日向倒れた。これで少しは静かになるね!」
「っつーか俺キレてねえし」
「キレてるだろ…思いっ切り」
「そういう竜ちゃんの方がキレてるんじゃないでちゅかー?」
「五月蝿えよ。何なら日向と同じ目に遭わせてやろうか?」
「ンだと、竜!」
「…2人とも五月蝿い。やるなら出てって」
「「…ゴメンナサイ」」

小田切の一言にキレた矢吹が掴みかかろうと椅子から立ち上がった。
…しかし、先刻キャラが変わった武田の一言に二人共驚愕する。
このまま此処に居たいなら黙ってろ…という意味にも取れる一言。
それを理解した二人は項垂れ、ひたすら謝罪する事に徹するしかなかった。






「……なあ、沢田」
「何?」
「…お前…なんで…ッ?アフリカ?!」
「何言ってるのか分かンねぇよ」
「アフリカ行ったんじゃないのか?!何で此処に居ンだよっ!?」
「帰って来たから此処に居ンだろ」
「でも…そんな連絡誰からも来てねえぞ?」
「当たり前だろ。誰にも言ってねえし」
「何だよ…帰って来るなら来るで連絡くらい寄越せよ」
…驚かせたかったんだよ…
「…は?何か言ったか?」
「…何も」





担任の問い掛けに俯きながら何か呟いた男。
そして…俯いた男の顔を覗き込みながら声を掛ける担任。
完全に其処だけが二人の世界。

何だよこんな所で愛の語らいしてンじゃねーよっ!
ンなもん家でやれ、家でっ!
…というのは教室の後ろから様子を窺っている4人の勝手な推測なのだが。
ああもういいやっ!直接聞いちゃえっ!!
覚悟を決めた武田がガタッと椅子から立ち上がり二人の元へと駆け寄った。

「あのーっ!二人の関係は!?」
「…は?」

突然目の前に現れた小動物のような武田を見て驚いたのか、彼は目を見開いた。
一方担任はというと、何言ってンだ武田っ!と慌てて一言。
その様子を見ていた矢吹・小田切・土屋も次々と教卓の元へと歩み寄り、口を挟む。

「ほら、とっとと教えてくだぱい!」
「そーだよ言っちゃえって!言っちゃえばスッキリするぞー」
「…何を?」
「だからー、二人の関係だってば」
「…は?関係?…って…」

どうやらこの鈍い担任は生徒達が投げ掛けている質問の意味が全くと言っていい程分かっていないらしい。
訳分かンねぇよ、と言いながらブツブツ呟く担任の腰にそっと廻された手。
…それは隣に立っている男の手だった。

「そんなに知りてえなら…教えてやろーか?」
「さ、さわだあっ!」

腰に廻した手に力を入れ、担任をグイッと抱き寄せた男が言う。
何と返答すれば良いのか分からずにそのまま黙っていると、男の口から出た言葉は…

「………コイツ、俺のオンナ」
「…マジでっ!?」
「…嘘だろ…」
「嘘じゃねえよ」

男の口から出た言葉に衝撃を受け、動けない。
そんな生徒達の様子を見た男は抱き寄せていた担任の身体を自分の方へと向け…

「な、なにすンだ沢田ッ!!」
「何って、タダイマのキスだけど」
「…ッ、言うな馬鹿ッ!」
「…なあ、そろそろ行こうぜ」
「へ?何処に?」
「決まってンだろ、お前ンちだよ」





じゃーな、お前ら!明日遅刻すんなよっ、と教卓の上の教材を纏めながら大声でそう言う担任。
そんな担任を見て溜息を零した男。
教室からその二人が去り、残されたのは4人…いや、倒れたままの日向を含めると5人。

「結局何だったんだよ、あの男…」
「「「さあ」」」

矢吹の一言に、他3人が頷いた。
あの男は何者なのか。
本当に彼が言う通り、担任のオトコなのだろうか。





彼の正体は帰りに寄った熊井ラーメン店で全て明らかになる。





━━THE END━━





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こちらも「///4ever///」の海里さんより「c/s」様主催の絵チャで書かれた素敵リレー小説をいただきましたvv慎がかっこいいです(><)
ありがとうございましたv
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