くもりぞら











 慎は、材木を運び出す作業をやめて首にかけたタオルで額の汗を拭った。ひと段落付いたので、持ち場から離れて近くの川辺に寝転ぶ。見上げた空には白い雲が浮かんでいて、太陽の光を遮っていた。いつもは痛いほどの光はどこか弱弱しく、目を瞑るとそれは穏やかに瞼を照らした。
――東京の空みたいだ、と慎は思った。
 作り物のような青色で覆われていて、薄雲がかかっていた。ぼんやりとした色が、自分のもやもやとした気分を示しているように見える。ここ数日、慎の滞在する地域は晴天に恵まれない。それと同時にチームの士気も下がったのか、慎も失敗を繰り返していた。
 額に手を当てて、目を瞑ったまま眉間に皺を寄せた。



 この地へ来て半年。
 ここへ来てから、周りから色々と陰で言われた。そこそこの英語力のおかげで、それは慎の耳にすぐに届いた。
――別にいいけど。
 本当の事なのだ。
 役立たずと言われようと、モヤシだと言われようと、温室育ちだと言われようと、それは事実なのだ。
 甘ったれ?そうかもしれない。ずっと周りに守られて生きてきたのだから。慎は自嘲気味に口元をゆがめると、汗が急に噴出してきた。思わず乾ききった口を少し開いてひゅう、と息を吐いた。
 夢いっぱいにこの地に乗り込んできたわけではないとはいえ、さすがに堪えていた。心の奥で、「もう帰りたい」ともう一人の自分が嘆いている。

 もっと自分に出来ることを考えなければ。
 何も出来ないで帰るなんて、出来るわけがない。
 自分が人一倍不器用なことは、とっくに自覚済みだ。
 それでもまだまだ、やれることはあるはず。

 泥のように眠っても、朝はすぐやってくる。悩んでいる時間も無く夜は明けた。
 そしてそんな時にがぎってあの女から手紙が届くのだ。連絡先は告げずにやってきたはずなのに、いつの間にか妹からそれを聞き出した彼女は、気まぐれに色気のかけらも無い便箋を寄越すのだ。

『お前の納得する道を進め。あたしは、それを見届けたい』

 先日届いたそんな一文で締められた彼女の手紙を読んで、ため息がこぼれた。この女は・・・いつも自分の欲しい言葉をくれる。
 悔しいと、思う。でもそれが、今の自分とあの女の関係。

――まだだ。まだ、納得なんて出来ていない。

 ここで帰ったって、自分の中にある想いの受け入れ場所はどこにも無い。
 めげないように、そう自分に言い聞かせる。
 いつまでも燻っていられない。立ち止まっていられない。
 瞼の裏で、あの女が屈託なく笑った。



 キィーと何かの動物の鳴き声に反応するように、目を開けた。
 解決策が見つかったわけでもない。けれど少しだけ、心は軽い。
 たったそれだけのことで、簡単に気持ちの切り替えが出来るようになった自分に呆れつつも、そんな自分も嫌いではない。
 そんな風に自分を変えたのはあの女だ。

「・・・見てろよ?」
 手紙の返事の代わりにそう呟いて、慎は勢いよく立ち上がった。




 見上げた空に、雲は無かった。






















fin

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アフリカシリーズ第2弾ともいいますか。
つまんない話ですが向こうでもがいてる慎が書きたくてしょうがないです。
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