軌跡 「・・・おつかれ様」 ベッドに横たわる久美子に、優しく慎が口を開いた。 「・・・アリガト、慎」 少し、疲れの残る白い顔で、久美子は慎の目を見つめて言う。 「ちょっと、感動した。母親って凄いな」 少し顔を歪ませて笑みを浮かべながら、慎は久美子の手を握り締めた。 「凄くないよ。だって慎がいなかったら、アタシは母親になれなかったんだから」 首を傾けて、自分の傍らで眠るわが子に久美子は視線を移した。 ついさっき産み落とされた、新しい命。 慎と久美子は、今日、人の親になった。 二人はそっとわが子を見つめ、そして優しく目を合わせる。 心にじんわりと、温かいものが染み渡った気がした。 「なあ、枕元に置いてるその箱・・・何なんだ?ずっと気になってたんだけど」 慎が、急に話題を変えた。 「ああ、これか?」 久美子は手を箱へと伸ばす。 「アタシの宝物だよ」 ゆっくり起き上がり、そっと蓋を開け、慎に箱の中身を見せた。 「え・・・?」 そこにあったのは数々の写真。 慎と、久美子の、軌跡。 「今までのアタシ達がいて、今のアタシ達がいる・・・そして、この子がいるから」 すっかり母親の顔をした久美子に、慎はありったけの想いをこめて、口付けた。 ******* 拍手お礼として掲載してました。 ありがとうございました!!! ウインドウを閉じてお戻りください。 |
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